Moonlight scenery

     The ancient mystery?”
 


     4



 地中海の端っこにある小さな半島と群島の国・R王国は、砂漠地帯を後背に背負うような位置取りにあるにもかかわらず、地下水の恩恵を受けもしての、耕作が可能なだけの肥沃な土地に恵まれ。また、そんな土地であるならば、周囲の他民族に目をつけられるところだろうに、砂漠という障壁が自然の要衝となり、且つ、随分と昔々にトルコ系の大きな勢力の支配下にあったことも当事には良いほうに働いての さして荒らされぬまま。その後も、その時期その時期の動乱や世界潮流に翻弄されることもなく、平和な小国というカラーを保持したまま、存続を続けて現今に至っているという“奇跡の国”であり。……そんな“奇跡”が難無く成り立つ理由や何や、歴とした裏事情は当然あるにはあるらしいのだが、今回のお話にはあんまり関係しないので
(おいおい)、大人の事情でそうならしいということで、あんまり深くは考えないで下さいまし。(既作で確認して下さい。)

  ………で。

 そんなこんなで細々存続して来たR王国は、表向きの基本原則として“敵を作らぬ”国政と執っていたため、派手な活躍もなくの知名度はとことん低いけれど、実のところ歴史はやたらに古く。古式ゆかしき儀式や祭典も数多く残っているし、歴代の王らの伝説は、逸話・説話があまりに多いもんだから、単なる歴史を越えた“おとぎ話”の題材にもなっているほど。そんなお話の中には、魔物を退治しただの海賊を追い払って財宝を捧げさせただのという、わくわくするよな冒険譚も数多く。どっかのお国のおとぎ話にも似たようなのがあるぞというような、どこまでオリジナルなものかも怪しいような代物も混ざっているのがご愛嬌。それとは別に…比較的新しいものの中には、だからこそ現実味の濃い話も少なくはなくて。大戦中に暗躍したスパイらが当国へも潜入したの、片っ端から畳んで国を守ったという先々々代の国王の武勇伝は、どこまでホントでどこからホラだかという奇想天外なものが多く。だがだが、時代背景が大きく混乱していた頃合いだったため、魔法じゃ魔物じゃが出てくるような方向ではない活躍に限っては、荒唐無稽に聞こえても案外本当の実話だったのでは?なんて、言われている伝承も数々あって。そんな中でも特にこそりと有名なのが、

  ―― ダダン国王の埋蔵金伝説

 埋蔵金なんて言いようは、どこの国にも数多くあるし、ともすりゃ今現在の財政の中でも引用されている、隠し金なぞを指す言いようだけれど。伝説ともなりゃ随分と昔々の領主や王様、若しくは盗賊・海賊が隠したものへの伝説である場合が多いところ、先々々代という微妙に現在と地続きなお人のお話なのが問題で。そんな最近のお人のやったことならば、伝え聞きなんかじゃあない文献とか残っていそうなもんじゃないか。目撃した人や手伝った人もいるはずじゃないか。なのに、確たる話じゃあなくの“伝説”だなんて、眉唾ものに決まってる…としながらも。子供たちへと話して聞かせる武勇伝の中、これが一番根強く人気だったりし。その子供にあたるガーブ陛下や、龍王と呼ばれた先代に比すればさほど豪快な人物じゃあないのだけれど。それでも、だからこそのドキドキが、普通一般の子供らにも伝わりやすかったものか、深い森やら遭難しかかった孤島での冒険はそりゃあ楽しくてハラハラするものばかりだったし、そんなところで見つけた宝物は、抱え切れないような巨大な宝石や酒をたたえた湖なんてな法外なものじゃなかった分、こちらもやはり現実味があっての、もしかしてホントかもよと、子供らの間で実
(まこと)しやかに語り継がれて来たのであって。

  ―― そんな王様が遺した…ということになっている財宝のありか

 仔細万端、記した地図があったとしたら。ねえ、あなた信じますか?




       ◇◇◇



 話はちょこっと以前に溯る。ごくごく普通の人だったからこそ子供たちに最も親しまれていて、しかもその姿の写真が残っているレベルで身近な英雄。そんな先々々代国王のお話、勿論というか当然というか、ルフィ王子もまた、幼いころから何かにつけ、守役の大人や傍づきのお兄さんお姉さんたちからお話ししてもらった『ダダン王の冒険譚』は大好きだったし。そこが普通一般の子供と違う、ダダン陛下が遺した作文ですよ日記ですよというものへ、特別に接することも出来る立場であり。だからこそ余計に、ダダン王の伝説にまつわる話には何をおいてもと飛びつくところがあって。そんな中でずっとずっと、その胸の中で大切にしていたのが“埋蔵金伝説”だ。財宝がほしい訳じゃあない、ただ。実際にいた人の話だのに、口惜しいかな人伝てに聞いた話ばかりな英雄。その人が本とに手掛けた冒険があったんだよとする“実在証拠”になるのなら、何としてでも見つけたいもんだなぁと。……やっぱりどこかで伝承扱いなままながら、それでも諦めることはないままに大事にして来たお話が、

  ―― 現実のそれとして、急接近してきたものだから。

 ルフィの曽祖父にあたるガーブ陛下が留学時代に乗ってた自動車。その車体から見つかった日記に、翡翠宮の主寝室の床の“隠し”に秘宝への地図がひそませてあるという記述があって。それってもしかして、ルフィが一番大好きな、ダダン国王の埋蔵金の地図のことじゃあないかしら。ノーランドという冒険仲間と二人、旅の船が嵐に遭っての海へと放り出されたことから漂着した孤島にて、数々のにぎやかな冒険の末、黄金や何やというお宝を見つけたお話。物書きだった留学生のノーランドが記したとされる冒険譚は、だからこそ嘘偽りのない日記のようなもんだった、よってホントの話だとする人もいれば。陛下本人の弁じゃない以上、その留学生の創作に違いないとする人もいて。ホントのこととしたいなら、だったらさ、その“お宝”を見つければ良いんじゃないか? 常々そんな企みを、その胸へとこそりひそませていたルフィにしてみれば、何と自分の寝起きするお部屋にそんな“鍵”があったなんてと、狂喜乱舞…したはよかったが。それをこそりと掘り出す方法が、なかなか思いつけなくて。そこで、

  【とある怪盗に協力を仰いで、隋臣の皆様まで誑かす一計を案じた

 ……というお話を、展開させていただいて。見事成功に漕ぎつけて、それらしい地図とやらを見つけたものの、何しろ古い代物、今の地形だとどこになるのかが判らない。当事と今とでは、地形は勿論、距離の単位や移動手段などなどが変わり倒しているからで。目印もなくなっていれば、距離の数えようだって異なってるところは多々あったので、そういったのを検証するのに随分と時間が掛かっており。

 “だってさ。
  ちゃんとした古典の博士とか歴史の専門家とかに、
  頼めることじゃあなかったし。”

 傍づかえの皆様には極力ばれないようにと構えて、ややこしい展開仕立ててまでして取り出したのに。そっちであっさりと底を割ってちゃ芸がない。そんなもんで、ウソップと王子という素人も素人二人で頑張って解読し、今様の地図へと書き起こすことが叶ったのがつい最近…なのだが。

 『なあ、ルフィ。やっぱ、これはこのまま手ぇつけずに置いとこうや。』
 『え〜〜? なんでだよぉ。』
 『だってよ、やっぱ、夢は夢のままにしといた方がいいってのか。
  金に目が眩んだ部分もあったのかってな方向で、
  お前の大好きなダダン陛下が叩かれでもしたらどうすんだよ。』
 『でもさ、元々はウソップが言い出したんじゃないか。
  シュリーマンって人が、
  神話の舞台になってた土地から遺跡を掘り出して、
  トロイ戦争が実話だったって証明して見せたように。
  埋蔵金を掘り出せば、おとぎ話なんかじゃないって証明出来んぞって。』

 そんな高尚なことまで引っ張り出してたんですか。でも、だったら尚更に、今になって何で二の足踏む彼か、ルフィでなくとも不審に思うことなれど。


 『……もしかして。王家の古廟にあるってのが判ったんでビビッてるとか?』
 『ち、違わいっ。』


  ………………ほほぉ。
(苦笑)


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  *この件に絡んで某怪盗さんにとあることを依頼した一幕は。
   『
The phantom thief appears.
   もしくは、『
大剣豪、出張す 事の顛末篇』にて復習をvv


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